本日は、平成26年(2014年)4月19日土曜日

【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です】

土日・祝日のテーマは「バラエティ」です。先週に引き続き、私が新卒で入社した株式会社キーエンスの話題です。当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)

私は、新卒で入社したキーエンスで、精密計測機器の直販営業を担当しておりました。退職後、同じ精密計測機器を扱うライバル会社に転じ(私のプロフィールはこちら)、キーエンスとの販売競争に勝つために、さまざまな研究をいたしました。

キーエンスは、付加価値の高い商品群をラインアップするところに注目もされますが、安く大量に調達する力にも目を見張るものがあります。キーエンスは私が入社した1987年秋に大阪証券取引所市場第2部上場を果たします。その上場年度に売上高100億円突破を達成し、営業利益率が40%に迫っていた記憶があります。おそらく当時は売上高原価率が20%程度だったと思います。もちろんこれは当時の製造業では恐るべき低コスト体質です。その要因は、黎明期に成長を支えた付加価値の高い独占的商品の販売のみによるものではありません、実は売上高の大半を占めていたのは、大手を含む先行する複数のライバル会社と競合する基本的なセンサであったのです。つまり、し烈な価格競争で受注してもなお、低い原価率であるところにキーエンスの強みがあったのです。そのあたりをライバル会社に転職してから、改めて考察してみました。

◆ファブレスが低コストの要因? 時々、事情を全く知らない第三者の方が「キーエンスの低い原価率、低コストの秘密は工場をもたないファブレスにある」と一言で片づけている場面もありましたが、即座に思考停止の発言だと思いました。私の見解は違いました。当時「生産の外注化、協力工場に発注」というだけで、生産コストが簡単に下がるとは考えにくいからです。21世紀の現在は、デジタル機器全盛です。モノづくりの観点で、やや強引な言い回しになりますが「デジタル機器は主要部品を調達して、組み立てれば完成。電源をいれて動作すれば、どの完成品もすべて性能を満たしていて、良品として出荷可能」そんなイメージです。主要部品はさておき、製造(組み立て)という部分に特殊なノウハウは必要ありません。「製造業」と冠していても、開発・設計・デザインと販売等に特化して、製造という分野(工場)をもたず外部に委託、いわゆるファブレスという形態は、現在のデジタル時代では、企業規模を問わず製品の原価を下げる手段として、もはや常識となりつつあります。

ところが、ひと昔まえのアナログ時代の電機業界。アナログの回路はデジタル回路と違って、組み立てただけでは、出荷できる性能を満たしません。必ずもう一段の作業工程があります。これはアナログ回路の宿命です。技能をもつ担当者による調整作業の工程です。例えば、基板上に設けられた調整箇所(ボリューム等)を微妙なバランスで調整(感覚的・職人的要素もあり)する作業などです。かつてのテレビや録画機器は、色合いなどを均一にするのもこういった調整作業があったはずです。製品を開発設計する部門とは別に、製品を組み立てた後に調整する担当者のスキルや高いモラール(士気)、もちろんその技能者を育成する体制、これがモノづくり日本の強みであったのです。バブルであった1990年頃のアナログ回路全盛の時代では、例え人件費が安くても、簡単に海外メーカーが模倣することは難しかったはずです。周辺諸国の製品が台頭したのは、その後のデジタル化のおかげでもあります。

私がキーエンスに入社した1987年(昭和62年)当時は、もちろんアナログ全盛です。センサ、測定機器まで内部回路がアナログなわけで、製品の組立や配線の作業ならともかく、肝心かなめの最終調整を外部の協力工場に簡単に移管できたのか、はなはだ疑問です。仮に調整作業を移管できても調整工数(人件費)がかかります。しかも調整された製品を最終的には自社で確実に最終検査する体制が別途必要になります。そういう意味で、ファブレスが低コストのすべてを占める要因ではないと考えていました。

◆部材を安く調達しているから?。では、購入する材料費が安いからでしょうか?実は、センサなどは量産といっても、民生品のような大量生産が無い為、電気関係の部品コストが簡単に下がらないはずです。

結局、私自身では答えをだせなかったのですが、転職先のエンジニアの方と話した際に「キーエンスの原価率の秘密は、ファブレスというより、設計段階の工夫だと思う。見習わなければ・・・」との話しを聞きました。キーエンスの総合カタログをじっくり眺めていて気付いたそうです。バブル崩壊後、メーカー各社の製品設計部門で、あたりまえのように実践することを、キーエンスは先取りしていたようです。

コストの次は、驚異の生産量(ファブレスですので調達量ですね)です。キーエンスで営業部門に在籍していましたので、製品の正確な在庫数量などは把握していませんでしたが、とにかく即納・大量発送も可能という一貫したスタンスで、キーエンスのまさに「物量作戦」ともいえる凄みを体感しています。中途採用で入社された方が、揃って驚かれたのが、新製品発売の段階でも出荷体制に全く揺るぎが無いところです。一般的な会社と同じくキーエンスでも、発売日前に営業担当者が新製品のPRを開始します。発売日初日から大量の注文が殺到しても「モノが無い」とか「出荷が遅れる」とか「いつ出荷できるか見通しがつかない」とかのトラブルを私自身も経験したことがありません。

キーエンスに入社した当時、私は予想を超える発注量に対応をできるよう、むしろ工場を所有している方がいいと考えていました。というのも製造を外部に依頼するよりも、自社工場の方が何かと融通が利くと体感していたからです。
実は、学生時代に半導体部品の工場でアルバイトをしていました。
当時隆盛だった録画機器(ビデオテープのタイプです)の需要増で、
大手家電メーカーから、急きょ信じられないほどの大量・短納期の発注があった際のことです。
工場では、社員はもちろん我々アルバイト全員も一丸となり「よーし」とばかりにフル生産で納期対応できた経験があったからです。
当時はどこの工場でも、働く方が営業部門のマインドを持ち合わせて業務をこなしていた気がします。自社が注文を受けた製品を、外部の会社に生産依頼する場合、委託先でこういうモラール(士気)を期待できないと思っていたのです。

キーエンスに入社直後の研修の際、同期のひとりが工場を持っていないファブレスの弱みを指摘しました。
ニュアンス的には、私のような生産変動への対応という視点でなく、「技術ノウハウの蓄積が難しいのでは?」といった鋭い内容だったと思います。
創業者ではなく、いまは退任された当時の経営幹部が回答されたのですが、「工場を建てる財務力はあるが、その必要はない。工場の管理、とりわけ労務管理やモラール(士気)を上げるということは、とても難しいことなのです。」と回答されました。前述の学生時代のアルバイト先の工場での燃えるような職場経験がある私は、そのこたえに「?(はてな)」の印象を持ちました。しかしながら、その後の人生で、この言葉の重みに思いをはせる場面を、幾度となく体験しました。大量注文でも納期即納で疾走するキーエンス。キーエンスが、黎明期のリード電機時代にファブレスを選択したことが、時代の先取りであったことは間違いなかったのです。
『元キーエンス社員の回想、通算100回』にして、学生さんむけ、社会人むけ、そして経営トップ・事業責任者むけの記事をまとめてみましたコチラをクリックしてください)。

2018_3追記
現在のキーエンスは、ファブレスのメリットを享受している企業です。
しかしながら、黎明期は『ファブレスでピンチを招いた?』
考えています。それを乗り越え、他社が追随できない販売戦術を確立した
キーエンスの創業者の思考は秀逸です。
詳しくは、関連記事[163] >>>コチラをクリックしてください。

2021_1_07追記

工場の人員削減は無しという前提でも、
自部門の主力製品をファブレスにすれば、本当に原価が下がる(利益が上がる)一例・・・

製造業のファブレス。実は全能の神ではありません。
導入すれば、原価が上がり、つまり利益が下がるケースも
あるからです。
30年ほど前、勤務していたアンリツで上司と語り合った
そのあたりの、ファブレス導入の議論について綴りました。

詳しくは、下記ブログ記事をご参照ください
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