本日は、平成28年(2016年)5月29日日曜日
【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 元キーエンス社員、中小企業診断士の立石です】
6月になりました。来春卒業・新卒入社予定である学生のみなさんは、就活本番の時期に突入した頃でありましょうか?
街中でリクルートスーツを見かけると、約30年前の自分自身のことを思い出します。
当時の私は、現在では絶滅危惧種?の「紺色(Navy)のスーツ」で活動していましたが・・・
業績をアップさせる、さまざまな「スキル」や「ノウハウ」、そして【仕組み】というものがあっても、『結局は、そこで働く人次第・・・』。 この考えは、経営者であるみなさんも同じ想いのはずです。 そして、経営者のみなさまが採用に際して切望されているのは、とにかく業績に貢献する人、将来の経営幹部・・・つまりは、優秀な人を求めることに他ならないことでありましょう。
経営者が求める人物像はさまざまだと思いますが、優秀な人を得るひとつの手順して『母数』すなわち応募者を増やすことも重要です。応募者数を増やすには、採用する企業の側が、まず襟を正す必要があると思います、
かつて、綴りましたが(コチラをクリック)、就活中の大学4年生であった1986年(昭和61年)、私は電機関連の製造業への就職を希望していました。ところが、プラザ合意以降の急激な円高不況下で、希望していた電機業界の新卒採用予定人数は激減。特に私のような文系の職種(営業等)の採用予定数は壊滅的であり、就活中は毎日が不安でした。また、その年は厳格な就職協定があり、8月20日以前に大手企業への会社訪問や会社説明会は、原則として認められていませんでした(翌年は変更されたようですが、この年は結果として厳守されました)。
そして、ただいまの6月に入ってから、ようやく中小規模の企業とコンタクトできるようになりました。現在と違ってネットが無い時代です。就職情報誌等に添付されていた専用ハガキにて、企業宛に資料請求をすれば「会社説明会」や「OBや人事の方に個別面談」といったお招きを受ける機会が、増えてきたのであります。
とはいえ、就活中は就職難であった世間一般の就活の学生さんと同じく、全てが順調ではありませんでした。アプローチしたほとんどの企業からは、とても丁寧な対応を頂けたのですが、「世間では一流企業」と言われているはずなのに、ごく一部の企業の対応には正直驚いてしまいました。
採用活動で、企業にとってマイナスになること:公正でない姿勢と不遜な態度
例えば、ある企業(電機)の会社説明会。就職難の影響もあったのか、大きな会場に100人以上の学生が集まりました。受付前の開場時間にあわせ早めに訪問していたので、前列側に座ることができました。
会社説明の後、人事担当者から「それでは、質問を受け付けます。積極的に質問をする、ヤル気のある方を欲しています」。「当てられた方は、まず学校名とお名前をおっしゃってください。それでは挙手どうぞ」。
私を含めて、周囲にたくさんの手が上がるのですが、全員に質問の機会が与えられません。5名ほどの質問で打ち切りです。そういえば説明会が始まる直前に、質問の機会を許された学生と人事担当者が、廊下で話している場面を見かけていたので、ふと気づきました。参加する学生も同様に思ったはずです『出来レースだ・・・』。どう考えても公正な採用活動とは言えません。
また、別の企業の場合。資料請求をしたところ説明会のお誘いがありました。「会社説明会といった堅苦しいものではありません。業界研究会のようなものです。若手社員からのご案内と質疑といったフランクなもので、1時間以内で済みます。是非訪問してください」と。その言葉を鵜呑みにして参加いたしました。
そして、訪問当日。事業内容等の説明・質疑応答で1時間がたちました、そして人事担当者から「これより筆記試験を行います」。「えっ?」事前の連絡とは異なる一方的な宣言です。
会場に学生が20人ほどいたのですが、「次の訪問予定(アポイント)がありますので」と、私と面識の無い他大学の学生の計3人が挙手をして、辞退する旨を申し出ました。すると、会場の学生が見守る中、人事担当者が血相を変えて「何い!どうして帰ろうなどと言い出すのですか?」と大声を発しました。何だか意味不明の叱責です。
私を含めて挙手した3人が席を立ち、声を揃えるように「申し訳ありません」。うちひとりが、頂いた会社案内をお返ししようと、静かに進み出ました。
私もならって、そうしようとした途端、「もういい!出でいけ!」とたたみ掛けられました。結局、3人とも無言のまま一礼して部屋を後にしました。部屋を出で、3人が目を合わせて苦笑い(口には出しませんが、「こんな会社、こちらからお断り・・・」)
以上の会社はともに、当時のキーエンスよりも規模が大きく歴史もある企業でした。
また、こんな実話があります。大学同期であった友人の就活。彼は、当時花形であった大手流通企業を志望していました。すべて伝統ある企業です。その流通の某企業から連絡を受けて訪問。
若手のOB2人と面談の後「これから会ってもらいたい人がいる」と通された部屋に人事部長・・・開口一番「当社に入社してもらえますね」。「(同業界で第一志望の企業があったので)、いまお答えは出せません」と正直に話したら、人事部長と、そばに控えていたOBが急に「寝耳に水」の表情に・・・。
そして数日後、くだんの人事部長から再度「当社に入社してもらえますね」と念押しの連絡。
第一志望の企業とコンタクト中である旨を伝えて、正直に「大変申し訳ありませんが、現時点では確約できません」。
すると、電話の向こうから大声で「スパイ!!」
耳を疑って、思わず「えっ?」発したところ、「裏切り者!」との罵声。
とっさに「一度、お伺いしてお詫びいたしたく・・・」。ところが遮るように「もういい、顔も見たくない!」<ガチャリ!>と 一方的に電話を切られたとか・・・
いい大人のする対応ではないですね(笑)。同期は、めでたく第一志望の企業に入社いたしました。
以上の傲慢ともいえる企業の姿勢は、口コミで企業イメージが低下する(ブランド毀損にもつながる)といった恐れがある一方、自社にとって何のプラス要因もありません。次年度以降の応募者が、確実に減少していきます。
見習いたい、当時のキーエンス新卒採用の姿勢
以前綴りましたが、当時としては珍しい自宅に郵送されたダイレクトメール。それがきっかけで、私はキーエンスへの会社説明会に参加したのであります(当時はリード電機:その年の10月に社名がキーエンスとなります)。
リード電機(キーエンス)の会社説明会は、前述の企業とは全く大違いでした。創業者ご自身による説明の後、参加した学生に対して公正に質問の機会を与えられたのです。
私も、挙手したところ、ありがたくもマイクを頂けました。
(「無借金で自主経営」「株式上場を目指している」という創業者に対して)『上場するということは、株式を一般公開するわけですから、かえって自主経営が難しくなるのではないでしょうか?』例として、優良企業でありながら、当時あえて自主経営を貫く、非上場の企業名も2社挙げました。
この質問は、上場を目指す経営トップにとっては、正直いって意地悪だったとも思います。むしろ。礼を欠いた非常識な質問だとされても、仕方がなかったと思います。ところが、創業者は、表情ひとつ変えず冷静に【即答】されます。
「【企業は人なり】と言われています。上場することで一層知名度があがり、ここにいらっしゃるみなさんのような、優秀な方を採用できるというメリットがあると思います。いかがでしょうか?」。こういう内容を、紳士的な口調で即時に返答されると、質問する学生の側が正直シビレます。
よくよく思い出してみると、リード電機(キーエンス)の筆記試験、数度の面接、創業者の最終面接・・・すべて公正なもので、紳士的に対応頂いたのです。
実は、創業者との最終面接の日程の連絡がありましたが、第一志望の大手ライバル会社の面接と重なってしまったので、辞退しました(この時点で、リード電機は不採用だなと覚悟しました)。それでも、日程を後日に変更して頂けて、最終面接に臨んだ次第です(綴りましたが、第一志望の大手ライバル会社の面接は、コチラをクリックしてください*あくまで当時の印象ですが、まさに<無駄>以外に他なりません)。
当時のリード電機(現キーエンス)は、急成長企業には間違いありませんでしたが、売上高が70億円にも満たない300人程度の非上場企業。知名度も、さほどはありません。また、現在のようにマスコミ等で取り上げられる、高い年収でもなければ、完全週休2日の企業でもありませんでした(当時、最終土曜日は出勤)。
それでも、入社直後に1600人を超える応募があったと聞きました(競争倍率35倍強)。日本を代表する有名な大手企業の内定を辞退して、入社した同期も複数いました。応募者が多いほど、採用する企業の側にとって有利なのは間違いありません。そういった成果を得るには、採用活動にあたっては、まず『公正に』『紳士的に』がキーワードになることは、キーエンスが証明しています。