本日は、平成27年(2015年)8月30日日曜日
【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です】

土日・祝日のテーマは「バラエティ」で、私が新卒で入社した株式会社キーエンス関連の話題です。
当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。
現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。キーエンスを退職して、当時のライバル会社に転職した後も含めて、最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)

前回のブログの続きです。
20年ほど前、お客さまとしておつきあいのあった元社長さんから、先日頂いた「アンリツのカタログ集」。古くて価値の無いかもしれませんが、今の私には懐かしい”宝物です”。
元社長さんのリクエストにお応えするためにも、この”宝石”を使って、おそらく現在も通用する「商品企画」に参考になる視点を、順次綴って参ります。

ブログをご覧になっている方の中で、測定機器に馴染みの無い方にとっては、専門的な解説は退屈になると思います。今回もいつも通り「わかりやすく」を心がけて、なるべく簡単に綴ります。

測定対象に、レーザ光を照射。触らずに測定対象の寸法を正確に読み取る機器があります。
レーザを照射する機器の部分と(ケーブルで接続される)本体の部分(下記写真①)で構成されます。この本体で演算や各種測定の設定を行います。
1写真①
この機器は、私がキーエンスからアンリツに転職して2ヶ月後に発売開始、入社前に開発進行していた製品のため、企画・開発のプロセスを知る由はありません(対キーエンスの機器群のひとつであることは、間違いありませんでしたが・・・)。
ひとことで言えば、あらゆる業界のお客さまのご要求に対応できる、多機能(各種の演算が可能)タイプの機器です。一般的に、多機能にすると操作が複雑になるのは当然です。ところが、この機器がすばらしいのは、操作や設定する手順が、非常にシンプルであること。正直な感想として「なるほど、アンリツが開発する機器だ」・・・と感嘆しました。
発売と同時に展示会に出展されました。引合がありそのフォローで受注案件が継続します。
ご購入頂いた複数のお客さまに、定期的に納入後のフォロー訪問をします。製造ラインの中で実際に設置されている場所にも案内されます(こういう場合、私は緊張感とともにワクワク気分でお邪魔します)。
レーザを照射する機器の部分には、当時「アンリツ独自の特許技術」(これが最も優位な点でしたが、後日とさせてください)が盛り込まれていて、その性能にお客さまは大満足でした。 ただ、使用方法を拝見していると、直接言葉にされてのご要求や、お叱りなどは全くありませんが、さらに必要なものが見えてきます。
偶然ですが(これが幸いでした)、私と営業部門の先輩が獲得した複数の市場ニーズ(実際は顕在化していないシーズかもしれません)が一致。「他社(特にキーエンス)を圧倒するために、この機器をさらに強くできるのでは?」と、先輩から強く後押しして頂いて、新しい商品の企画をするに至りました。
結果誕生したのが、下記の機器です。前述の機器と特許技術を盛り込んだ性能は同じ。いわゆる市場深耕のバリーエーション展開です。
写真を見比べられて何が違うか、お分かりでしょうか?
(写真クリックで拡大)。
2写真②(クリックで拡大できます
逆転の発想
 ▲簡単・明瞭のさきがけ?
いまでいうシンプルな機能に絞った携帯電話のイメージです。当時、計測器の表示は英語表記があたりまえでしたが、企画段階の打ち合わせで「日本語で表記してください」と提案しました。開発・設計エンジニア部門の方は、予想通り「ええっ~?!」と目を丸くされました。それでも、日頃、あれこれの顧客ニーズを提出・報告していたおかげでしょうか(実際はバラバラの報告だったのですが、エンジニアの方はすべて熟読されていたようです)必要となる背景をすぐさま理解されて、「どうせなら、電源表示のON・OFFも、日本語表記の【入・切】にしましょう」と逆提案されました。そこまでは必要ないかなと思いましたが、「せっかくなので、徹底しましょうよ」と。前例にとらわれず、目線を合わせて真剣に考える方々を前に、こちらも何だか元気が出てきます。現在のグローバル対応では無理な機器かもしれませんが、当時、ニーズ先取りのキーエンスにも、こういう機器が存在しなかったと思います。
寸法サイズ:大きくても勝てる!
世にでる新商品は、一般的なトレンドともいえる「軽薄短小」に準ずるべきという発想になります。ところが、この機器は従前タイプと寸法サイズが同じです。当時のライバル会社であったキーエンスの機器より、相当大きいのです。一見不利なようですが、無いモノねだりなど不要です。あちらこちらの製造ラインを見学させて頂いた私には「大きいからこそ受注競争に勝てる」という確信があり、発売後その通りに進みました(その理由については、拙著のP50【机上の理論と、顧客に近づいた情報との格差】に綴っています⇒詳しくはコチラをクリックしてください)。
その他
機能を絞りこんでいるようで、新たに追加した機能等が多々あります。もちろん、あちらこちらのお客さまの製造ラインの訪問で気づいたことです。「(無理かな?と思いつつ)こういう機能が欲しいのですが、新たに盛り込めますか?」。対して、開発・エンジニア部門からは、笑顔かつ余裕の表情で「できますよ。その程度のことは設計段階で盛り込むだけの内容です。いたって簡単なことです。心配ご無用です」。恥ずかしながら、当時文系出身で20代半ば過ぎの私は、技術的な難易度というものを、まだ理解していなかったようです。

実際に使っている方へのアプローチが肝要
そして発売され・・・
まずは、従前機器の納入実績先のお客さまに機器を持参して訪問します。反応はさまざまですが、狙いとしていた業界では、「なるほど~!」「次はこれにします」。この機器は、何度もキーエンスと受注競争になったことがあります。それでもキーエンスより高い提示価格で受注できたはずです。お客さまがその価値を認めてくださったのです。高付加価商品とは、高精度・高機能のみと考えがちですが、さほどハードルが高くない「使い勝手」も重要なファクターだと確信しました。製品の高付加価値化の実現には、ライバル会社の機器の性能等をチェックすることも必要ですが、何よりも「実際に機器を使用される方に近づく」ことに尽きます。エンドユーザーにアプローチすることはもちろんですが、機器を選定された方と同じく、さらにその奥におられる「実際に使っている方」へのアプローチが肝要なのです。アプローチに際して必要なのは「ヒアリングできるスキル」を身に着けることです(ヒアリングのスキルや手法は、さほど難しいことではありません)。
その後も、アンリツの開発・設計エンジニアとのスクラムで、新製品が続々と発売されます。次回もその話題ですが、私が「さすがはアンリツのエンジニア!」と唸った話題を綴ります。(なお、ご紹介した上記機器は、20数年たった現在、販売されていないと思います)。

『元キーエンス社員の回想、通算100回』にして、学生さんむけ、社会人むけ、そして経営トップ・事業責任者むけの記事をまとめてみました(コチラをクリックしてください)。

出典
写真① 型式KL350A アンリツ株式会社 レーザー外径測定機総合カタログ(CAT.NO.46377-1 1993-5)P11より抜粋引用
写真② 型式KL351A アンリツ株式会社 レーザー外径測定機総合カタログ(CAT.NO.46377-1 1993-5)  P7より抜粋引用