本日は、平成26年(2014年)8月31日日曜日
【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です。

土日・祝日のテーマは「バラエティ」です。先週に引き続き、私が新卒で入社した株式会社キーエンスの話題です。当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。キーエンスを退職して、当時ライバル会社のアンリツに転職した後も含めて、最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)

かつて綴りましたが、私が入社した20数年前のキーエンスにおいては、既に「全商品即納」の体制を確立済みでありました。当日の早い時間帯に手続きをすれば当日出荷が完了というシステムです。当時、キーエンスの主力商品は、基本的なセンサでありました。センサは保守部品的な要素もあり、故障にて交換の為、即入手したいとういうお客さまのニーズに応える意味からも、即納体制の構築は当然であります。そのキーエンスの中で、私はセンサとは異なる当時最も高額商品を扱う事業部で、主に精密計測機器の販売を担当していました。計測機器の分野では、お客さまより即納が求められるケースは少なかったと思います。ところが、キーエンスではどの事業部であれ、販売商品全てが即納でありました。創業者が一切妥協しない「例外の無い方針」によるものです。
キーエンスからアンリツに転職して、まさに競合となる商品の販売を担当しましたが、転職した当初、対キーエンスとの受注競争に際して、「即納が無理な為に敗北、失注」という経験は個人的には皆無でした。明らかに高い精度、希望小売価格も低く設定されている点が圧倒的に優位だからだったかもしれません。ただ、個人的な感想でライバル会社がそうであるならば、自社が属するアンリツも対抗上即納であることに越したことはありません。
当時のアンリツは、BtoB(企業ー企業間取引)分野に限りますが、さまざまな事業分野むけにさままざまな品種の商品を展開していました。私が販売担当する精密計測機器の部門は、標準品の販売はもちろん、標準品にさまざまな追加改造を実施したり、各種オプションを付加する製品群を扱う事業部の中に位置しておりました。
キーエンス時代には、営業部門と出荷を行う本社の間に専用の回線もなく、営業担当者が在庫状況を確認する術がありませんでした。しかしながら、かつてブログで綴った通り、まとまった数量でも営業部門が当日の出荷を依頼する分は確実に出荷され、納期遅延など発生する余地など全くありません(キーエンスで納期遅延という事態は、まさに「大事件」であります)。
一方、転職したアンリツでは、さすがに通信を得意とする会社であったためでしょうか、私が入社した現在から25年以上も前(1989年度)に、営業部門が工場部門の在庫等をタイムリーに確認でき、しかも営業部門からオーダーできるという画期的なシステムがありました。また、このシステムを使うと見積書も手書きから、いまどきのワープロ記述ができるので、業務の効率化を体感したのでありました。
当時のアンリツの営業部門で確認できる「在庫の状態」というのは、カタログ標準品が取扱説明書等とセットになって、倉庫にある状況だと説明を受けました。徐々に、キーエンスとの販売競争がし烈になってくると、全国の営業拠点のあちらこちらから、キーエンスに対抗する上で、即納が必要であるという声がもたらされたと思います。ライバル会社が、特注を一切受けないキーエンスなら、わがアンリツも、改造や特注の無い標準タイプで十分対抗できるはずです。標準品の在庫がタイムリーに確認できる体制なのですから、そのまま在庫品を出荷すれば事は済みます。しかし、そう簡単にはいかないのです。どういうわけか、どう急いでも在庫品の出荷が、当時は3日~10日ほどかかっていたのです。ファブレスのキーエンス出身者の私にとって、製造の流れという知識は当時全く皆無に近かったのと、前述の通り、自身が納期で敗北することは無いという経験上、「まあ、そういうものだろう」と波風も立てずに受容しておりました。しかも、転職入社したばかりの立場だったので、キーエンス流に「良い悪いをはっきりさせる」ことなど不可能なのです。
そんなある日の夕方。お世話になっている取引先の資材購買部門のお客さまに、ご挨拶でお邪魔した際に「そうだ!至急お願いしたい件があります」と、他事業部の製品のオーダーを頂きました。担当事業部の営業部門の先輩にオーダーの連絡をしたところ、「ありがとう、納期確認します」。当時は携帯電話もありません。20分ほどして公衆電話から先輩に再連絡いたします(余談ですが、当時、世にあるNTTのカード式公衆電話の2台のうち1台が、アンリツで製造されたものだったのです:本当)。
先輩いわく「工場と交渉しましたが、今の時間では本日出荷は無理で、明日出荷で明後日の着となってしまいます。本当に申し訳ない」と。早速、資材購買部門のお客さまに事情を説明申し上げたら「あさって着で十分ですよ。お願いいたします。本当に助かった、ありがとう」と。
すべでがあっけにとられて、帰社してから先輩に注文書をお渡しするとともに、この事業部の納期について伺いました。「うちの事業部の商品は待ったなし。もちろん標準品で在庫があるという前提ですが、午前中にオーダーがあれば当日出荷が可能。それでも、もう少し遅い時間のオーダーでも、当日出荷して欲しいという、お客さまからの厳しい要求があります」。お話しを聞いた瞬間、心の中で(キーエンスと同じく、アンリツで即納体制を実現している部門があるんだ!よし!よし!)。前回綴った「工場を持つ強み」が伝承されているのだろうと納得いたしました。ところが、同時に素朴な疑問が湧きます。「何故、私が販売する事業部の製品は、在庫分の即日出荷が無理なのだろう?・・・」。以上のエピソードを携えて、自身が属する事業部側の担当者や管理者に「(キーエンスのように)当日出荷は無理にしても、在庫品の翌日出荷ならできることではないか?」というニュアンスで、都度チクリと話します。どう考えても、同じ会社の中で、同じ業務システムなので可能なはずです。しかも、当日出荷でなく翌日出荷という(遠慮して)譲歩した具申です。ところが、それに対する答えはいつも同じです。「できない」「無理だ」。その理由を問うて、聞かされる答えの記述は省略しますが、私から言えば「思考停止そのもの」です。営業部門の責任者を通した部門間協議でも変わることはありません。その後10余年後経過したアンリツ退職直前においても、回答される理由の内容は異なれど、残念ながら状況に変化はありませんでした。お客さま第一、売上優先についての提案については、二週間もたたぬ間に検討・改善実施されるキーエンスとは明らかに違います。もちろん、私が退職した後のアンリツの当該部門の動向を知る由はありません。
アンリツに転職した当初の時点では、優秀なエンジニアが開発・設計した「私がキーエンス時代に惚れ惚れした」製品の性能が、キーエンスに対して圧倒的に優位。しかも営業担当である私自身も、キーエンスとの受注競争で一歩も遅れをとりませんでした。ところが、以上のような「例外が存在する」という商品出荷の体制では、後発・ファブレスながら「創業者の例外なき方針」で戦いを挑んでくるキーエンスに完勝することは、そう簡単ではないだろうと、一抹の不安を感じたのであります。
ほどなく、「技術力」と「営業力」だけでなく、この「すみやかに出荷」という課題が、キーエンスとの受注競争の勝敗に影響してきます。そのキーエンスとの競争がきっかけとなって、競争戦略やライバル会社に勝利する普遍的なルールの研究にのめりこみ、その後、経営コンサルタントの道を歩むことになりました。(会社勤務の後に独立、総計20年以上かかった集大成を盛り込んだ、現代の中小企業経営者への提言は、コチラをクリックしてください)。

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