本日は、平成30年(2018年)1月13日土曜日
【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 元キーエンス(→アンリツ)社員、
中小企業診断士の立石です】

前回に続きまして、
私が惚れ込んだ、いわゆるレーザ光を用いた非接触変位計、
アンリツの(光マイクロ®)について綴ります。
(光マイクロは、アンリツ株式会社の登録商標であります)。
今回は、前回綴った性能項目である
【直線性:Linearity】、その裏付けについて綴ります。
この機器を開発・設計した、アンリツのエンジニアの方とのやりとり、
そしてレクチャー頂いた時の記憶です(30年経った現在も、
思い出すたび気恥ずかしくもあり、また鳥肌がたつ想いです)。

性能項目のひとつである直線性(Linearity)
下記は、前回と同じくアンリツの
光マイクロ 総合カタログ CAT.NO.46368-2 用語説明(P25)よりの抜粋です。


30年前当時、最高精度を誇った
アンリツの光マイクロ®(KL130A)
測定範囲160μm内では、どの位置でも
直線性(Linearity)は、±0.08μm以内!

(単位については、既に綴りましたが、1μm=1/1000mm)。

いよいよ本題です。
【真値】て何?
つまり、何を基準にしているの?

前回綴りました、素朴な疑問。基本(基準)となる【真値】て何?。
【真値】という用語がでる以上、この測定機器より精度の高い機器
(基準となる原器)を、所有していることが前提条件となるはずです。
原器がなければ、真値ではなく、仮想・願望などの類、単なる理想に過ぎないですね。

直線性(Linearity)の規格が、±0.08μm以内とカタログに記載するには、
基準となる原器で、 光マイクロを測定(出荷検査)した結果という、
裏付け・証拠(evidence)が必要になるのは当然です。
平たくいえば、トレーサビリティといった範疇でしょうか。
その原器は、果たして何だろう?

ここで、アンリツのエンジニアの方からのレクチャー

当時、アンリツに転職したばかりのド素人の私に
よくお相手頂いたと思います(感謝あるのみです)。
エンジニアの方から『まずは、
この機器を完成させる手順を、お話しした方が早いですね』と。

アンリツの強み:直線性を向上させる仕組み

『 測定物を照射するビームの最小直径が10μm
(当時主流であった、780nm波長の半導体レーザを使った変位計では、
業界最小:実は理論値の限界レベル)。
その光マイクロの独自の光学系を含めて、
他社が全てそっくりコピーしても極論、センサ部と表示部を、
そのまま他社に供給しても)、
直線性(Linearity)±0.08μm以内という機器に
完成させることは、相当無理があると思います』と。
その理由は、組み立て後に
一段高い性能の機器(原器)の移動量(直線とする補正データ)を、
光マイクロのROM(ロム)に記憶させているからだと・・・

では、その基準となる機器は、何かわかりますか?と問われ・・・

(ウーム・・・そういえばキーエンス時代に販売していた同等品では、
何が基準だったのだろう?直線性(Linearity)について、
そこまで突き詰めたことが無い・・・)
キーエンスで精密計測機器を取り扱っていた関係上、
何か答えないと恥ずかしい・・・焦りました。

とにかく、あてずっぽうで市販品を思い浮かべました。
手動で回すマイクロメータを使うのでは?と(移動量の表示付:例えば【0000μm】)
マイクロメータの先端に、光マイクロの測定範囲内のビームを当てて、
マイクロメータを1μm移動させるたびに、
その表示値を読み取って、光マイクロのROMにその値を打ち込む?
(本音は、話している自分が恥ずかしくなるレベルです)。

こちらの説明が、しどろもどろになっていく中で
(決して上から目線でなく)優しく笑われてしまいました。
『0.1μm以下の直線性をクリアするために、
1μm単位であるマイクロメータの目盛が果たして真値となりますかね?』
(当然のご指摘だと納得です)。
そして、
『話の腰を折って申し訳ないのですが、
何よりもマイクロメータを手動で作業するとなると、
体温の影響でマイクロメータが膨張・収縮して、絶対距離が
更に怪しくなりませんか?』
ああ、そうだ。0.1μmの世界なら、温度も考慮する必要があるんだ・・・
(レベルの低さを痛感した私は、少しシューンとなりました)。
『でも、基本的な補正の手法については、正しく理解されていますよ。
営業の方で、そこまで理解されているのは、大したものですよ』と、
逆に励まされました(優しいご配慮に違いありません)。

アンリツの光マイクロ®(KL130A)
直線性(Linearity)±0.08μm以内
基準は、レーザ干渉計

レーザ干渉計は、測長の神様。
温度変化を抑えた(夏・冬でも温度一定)クリーンルームで補正を実施。
人の体温が関与しないように、全自動で直線性補正を実施する設備を保有。
ファブレスのキーエンスと違って、
当時、工場(クリーンルーム)を所有するアンリツの強みだったかも
しれません。

勿論ですが、出荷分すべての直線性(Linearity)が±0.08μm以内
1台毎に製造番号を付記、
その1台毎にレーザ干渉計を使って直線性データを
ROMに記憶させているとのことでした。
以下は、直線性データの一例です
出典アンリツテクニカル57号抜刷 高速、高精度レーザ変位計-KL13Xシリーズ光マイクロ 87頁fig.6 直線性試験データ より抜粋。
(注)私の手持ちのスキャナの精度が悪く、申し訳ありません。

上記にあったY=Xの真値グラフを水平にしたイメージです。
KL130Aは測定範囲が±80μm
波となっている波形は、
レーザ干渉計を移動させた際の絶対値と誤差(直線性)。
当然ですが±0.08μm以内に入っています。

アンリツの光マイクロ®(KL130A)は、キーエンス同様、
カタログ標準品(量産品)でした。
一般的に、量産品の場合は
データを『代表値』の提示で済ませる場合もあります。
(例えば、食品の栄養成分表示の目安もそうですね)。

特に驚いたのは、当時のアンリツは、
お客さまのご要望により、
出荷・納入する1台(製造番号)ごとの直線性データを
添付することも可能だったことです
(実際の提出フォーマットは、少々異なっていたと記憶しています)。
それにしても、直線性の出荷分全数保証、データ添付可能・・・(驚)

改めて【これが技術のアンリツだ】と、
その奥深さを徹底的に思い知らされたのでありました。

もろちん技術も『人』次第

アンリツの開発・設計エンジニアの方は、
人として、優秀な方が揃っていました。
もちろん、
『よく考えて行動する』
そして、心の中では
「我々エンジニアが、アンリツを牽引する」という
燃えるものをお持ちです
(以前、綴りました。>>>コチラをクリックしてください)。

一方で、私のような素人に対しても、
決して威張らず、目線を合わせて丁寧でお優しいこと・・・
(だれかが、ズバリ言い当てました。
『実るほど頭を垂れる稲穂かな・・・なんて超越している。
アンリツの開発・設計エンジニアは、
ざらめのお砂糖に、トロ~リと蜂蜜をかけたような方々だ』と:笑)。

アンリツに転職して、
さらに圧倒された光マイクロの技術(エンジニア、製品)。
キーエンスを含め、全ライバル企業との販売競争に
完全勝利できるのでは?と、勇気の湧くひとコマでした。

次回は、性能項目の『繰返し性』。
この『繰返し性』も、当時最高精度でありましたが、
後に、更に高精度であったことが判明するという
おもしろおかしい?お話も、綴って参りたいと思います。