本日は、平成26年(2014年)8月23日土曜日

【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です。

土日・祝日のテーマは「バラエティ」です。先週に引き続き、私が新卒で入社した株式会社キーエンスの話題です。当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。キーエンスを退職して、当時のライバル会社に転職した後も含めて、最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)

既に綴りましたが、キーエンス勤務時代は連日21時台まで残業となり、平日は早い時間に帰宅することなど滅多にありませんでしたが、当時ライバル会社であったアンリツに入社して驚いたのが、「一斉定時退社日」の制度でした。
入社して最初の水曜日のことです。管理職の上司から呼ばれて「毎週水曜は定時退社してください。課に人が残っていると、管理職である私が注意を受けてしまいます」。思わぬ制度に「エッ?」と驚きました。働く立場としては、とてもありがたい制度でしたが(既に退職したので本音を申し上げますと)、私は定時退社の制度を、義務でなく「権利のひとつ」だと思っていました。
つまり、権利を行使する云々は自身で判断するものだと。実際、待ったなしのお客さまへの回答に「定時退社日ですから後日にしてください」なんて言えるはずがありません。特に受注獲得競争の場面で、残業という戦術で戦いを挑んでくるキーエンスに勝利するには、常に当日に完遂するという意識が必要だからです。

もちろん連日が、そんな競争場面ではないので、定時退社の恩恵も頂きました。定時後、諸先輩方と飲食を共にする機会も多かったと思います。若い社員が多いキーエンスと違い、転職したアンリツには世間一般の会社同様、シニア世代の社員が多数在職していましたので、さまざまな場面でアンリツの歴史を伺う機会がありました。

私の入社した頃より「ひと世代まえのアンリツ」は、もちろんブラック企業ではありませんが「猛烈な会社」だったようです。かつて、経営危機の状況にも陥ったことがあるらしく、その厳しい経営環境を打開する新規のプロジェクトが無数あったとのことでした。腹のすわった経営トップがいて「とにかく残業してでも開発を急いでください。しかしながら、ただいまは残業代をみなさんに支払う余裕が会社に無い。異議のある方は労基署に申し出てください。私は真摯に罰を受けます。但し、いまあるプロジェクトは必ず成功します。そして成功したあかつきには、残業の不払い分はもちろんお支払します」と頭を下げられたらしいのです。決意した社長の訓示を聞いた社員は、誰ひとり不満を言わず開発にまい進したとのことでした。そしてプロジェクトはすべて成功、その後急成長して、お約束通り残業代分は支払われたそうです。私が販売を担当した製品の開発・設計エンジニアの部門にも例外なく、この精神が間違いなく伝承されていたと思います。「エンジニアが会社を引っ張っていく」という気概です。

そして当時のアンリツでは、開発・設計エンジニアの部門だけでなく、工場の製造部門も当時は壮絶な長時間労働であったと伺いました。市場に投入された製品が優秀であったので、受注が殺到。ところが、簡単に増産できるとはいかなかったようです。かつて記事で綴りました「アナログ機器の宿命」が原因のひとつです。設計エンジニアが作成した製作図面にミスは無く、部品点数も少ない「出来栄えのいい図面」らしいのですが、図面通りに製作しても、そのままでは「性能」が出ません。調整箇所を微妙に操作するのが、まるで職人芸・・・。1か所を調整して、ある特性が合格となると。別の部分が不合格・・・その別の部分を調整しなおすと、当初合格だった部分がまたも不合格になってしまう・・・。連日が戦いのようであったと回想される方がいらっしゃいました。そんな折にも受注が次々に舞い込んできます。休日出勤もあたりまえだったとか。管理職の方の気遣い(ポケットマネー)で、当時はぜいたく品の部類でしょうか、ビン入りのサイダーやジュースが常備されていたとのことでした「休日は職場に来て、好きに飲んでいいから、とにかく1台でも多く完成・出荷を」 との仕掛けだったそうです。

別の部門では、終業の時間を合図に係長が課長のもとに走る光景があったとのこと。課長から「あとはよろしく頼みます」と託され、伊藤博文(1,000円札)を頂いてパン屋さんに走ったそうです。いまのようにコンビニが普及していない時代です。あるものといえば、いまもロングセラーの菓子パン(あん、ジャム、クリーム)。まとめ買いされて、「全員集合、これは課長からの差し入れ」と机に大量のパンを並べます。全員で食しながら「絶対、納期厳守でいこう」と決意しあって残業が開始され、日々出陣式の様相があったとのことです。

お話しを伺ってから、「キツかったでしょう?」と尋ねると、先輩方の答えは共通です。「正直キツイけれど、キツイなんて絶対に口にできない。というのも、納品を心待ちにしている、お客さまの矢おもてに立つ営業担当は、もっとキツイのだから」。「管理職である課長は、一般社員に残業の強制はできない。それでも優秀な係長が全員を説得してひっぱっていく職場であった。達成感があっても不満なんて出るはずがない」。

アンリツの諸先輩のお話しを聞いて、工場のある製造業の強みを体感しました。「製造部門の高いモラール(士気)」です。ファブレスのキーエンスには、真似ができない強みだと感じました。営業担当者が意気に感じ、安心してライバル会社との競争に勝ち受注獲得にまい進できる会社であるはずです。当然、対キーエンスを含む販売競争を制すには、最高の環境のはずです。ブログをお読みの方の大半が同意いただけると思いますが、当時の私は、対キーエンスを含む販売競争について「完全なる勝利」を確信したのでありました。ところが、そうは簡単にはいかないのであります。

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