本日は、平成26年(2014年)7月21日(月・祝日)
【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です】
土日・祝日のテーマは「バラエティ」です。先週に引き続き、私が新卒で入社した株式会社キーエンスの話題です。当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)
私が、キーエンスについてブログを綴る動機となったのも、正確なことををお伝えしたかったからです。かつて綴りましたが【40歳代で墓が立つ】については、根拠のないネット上の落書きに違いありません。また、キーエンスが「楽に稼げる会社」であるとか「ブラック企業」である・・・ともに間違っていると思ったからです。そして、私が在職した当時のキーエンスは中小企業から飛躍する頃であり、現代の中小企業経営者の方の参考になればとも思ったからです。今後も、事実と私見は明確に分けて綴ってまいりたいと思います。
キーエンス退職後、転職したライバルのアンリツ株式会社。当時の始業時間はキーエンスと同じ朝8時30分。朝礼はキーエンスのように毎日実施ではなく、週1回に管理職よりの訓話。数分で済む内容でした。朝礼開始はチャイムが鳴る8時30分スタート。チャイムとともに全員が席を立って、朝礼開始となります。
本日は、ちよっと突っ込んで考えてみます。仮定の話(バーチャルな会社としてください)ですが、朝礼が始まって数分ほど経過した時点で、毎度、臆面もなく堂々と遅れてくる人物がいたとします。世間一般の会社では、経営者または管理職が遅刻を注意することになるでしょう。ところが「会社の敷地に8時30分に入ったのだから、遅刻では無い」「8時30分に朝礼参加させるのなら、敷地に入る時間から早出手当を支給しろ」と強く主張されたらどうでしょうか?労働基準法云々で紛糾した場合「準備時間をどうとらえるのか」等々、最終的には司法の判断となりますが、遅刻とされる人物の主張が通ることもあります。それでもほとんどの従業員は、始業時間を巡って、そんな先鋭的な発言や行動をしません。法律とは別の「従業員(社会人)としての常識」等という一体感をともなう社内のルールが存在しているためで、むしろその明文化されていない暗黙のルールが、先鋭的な考え方を封じ込めます。ほとんどの会社が、そうなっているはずで、社内の士気(モラール)が高い企業ほどその傾向は強いはずです。
では、キーエンスではどうなっていたのか、記憶をたどってみます。私が勤務していた当時のキーエンスの始業時間は8時30分。赴任した営業所では、毎日8時15分に全員参加の朝礼開始。新卒で転居した直後に通知された毎朝8時10分に出社していました。朝礼参加は任意でなく事実上義務づけられていました。
ここで事実を記しますが、キーエンスでは定時後の残業代は全額支給されますが、始業時間8時30分以前の勤務についての手当の支給は一切ありませんでした。それでも私はもちろん、営業所のメンバーは誰ひとり、この始業前の勤務時間について異議を申し立てる者はいなかったのです。私が入社する時点で既に存在した「(暗黙の)社内ルール」の存在が、営業担当者全員を納得させたのでありましょう。当時の営業所は、中途採用者の方が大半でしたが、考え方にも一体感があり、モラール(士気)が高い職場であったことに疑いはありません。また、この始業時間前の15分間を準備時間とみなすこともできましょう。個人的には都合が良い場合がありました。工場への営業を経験されている方なら、おわかりだと思いますが、電子メールが普及していなかった当時、業界によっては8時30分直後が、事務所から製造ラインにでられて不在になるお客さまと、唯一電話コンタクトができるゴールデンタイムでもあったのです。そういう意味で始業時間より早い8時15分の朝礼開始も、理にかなっている一面があります。朝礼が終わって即、営業電話開始というスタイルが、私が所属した精密計測機器の販売グループでの、いい習慣でもありました。
ところが、営業所に赴任してほどなく「さらなる出勤時間繰り上げ」の指示がありました(事実として、これは強制です)。8時に朝礼開始という通達です。まず、長期休暇(夏休み等)明けの初日に実施されました。これは本社からの正式な通達ではありません。「休み明けの立ち上げをよくする為」という目的とやらですが、理解を求める詳細な説明は聞かされませんでした。ほどなく、毎週月曜日も8時に全員参加のミーティング開始となりました。ミーティング終了後の8時15分に朝礼実施・・・。このあたりから営業所内の一体感が失われてきたような気がしました。今思えば、始業時間30分前のミーティングが、業務の準備時間と考えるのは相当の無理があります。予想通り、問題点を指摘する社員がいて、定期的に開催される自己申告の場で「始業時間を8時30分から8時に繰り上げるなら、あわせて終業時間も17時15分から16時45分に繰り上げるべきだ」と抗議されました。これは、ごもっともな指摘です。始業時間に数分遅れて権利を主張する立場とは明らかに違います(ところが、「後ろ向きの発言だ」とされてその場で却下されました)。結果論になりますが、いま思えば、正しい質問の仕方は「これは経営トップ(創業者)が承知していることなのか?」が妥当だったかもしれません。実際、経営者(創業者)が承知しているのなら、抗議した方の主張通り、就業規則を変える必要があるからです。始業時間の繰り上げは、私が心酔した創業者の指示であるはずがありません。当時は暴挙だと感じていましたし、いつしか労働争議に発展するのではと、危惧したものです。そんなキーエンス時代の毎週月曜日。私は「言われた通りの8時に出社厳守」。といっても、毎回ギリギリの7時58分に出勤していました。実際、それ以上早く出社して行う業務など存在しなかったからです。さらに言えば、業務命令の指定時間より早く出社する意思がなかったのです。私が退職した後、所属した営業所の始業時間が一体どうなったかは、もちろん知る由がありません。
ちなみに転職したアンリツでは、始業時間の繰り上げを強制する管理職は存在いたしません。業務上本当に早出が必要なら、まずは相互で話し合うという手順を踏みます。若し、一方的に強制を行う管理職が存在したとしたら大事件です。会社員生命はそこでENDだと思います。生ぬるいように感じられるでしょうか?ところが、私のアンリツ勤務時代の出社時間は、意外なことにキーエンス時代より早く、10年という在職期間を通じて、毎日ほぼ朝7時30分には出社していました。時々、朝6時すぎということも珍しくありません。残業はキーエンス時代並みにこなしていたと思います。しかしながら、勤務時間について不満をもったことは一度もありませんでした。時には、ある新製品開発のプロジェクトで、取引先にあたるお客さまが都度朝8時過ぎに電話されてくるので、その対応の必要もありましたし、何より自主性という枠そのものが、水を得た魚であったのだと思います。しかも、アンリツの営業部門では、私より出社時間の早い方が事実として多数いました。
転職して改めて気づかされました。あくまで私見ですが「人は強制しなくても、自主的に活動する」「怠惰な職場ならともかく、モラール(士気)の高い職場に、強制は百害あるのみ」ということです。みなさんはどうお考えでしょうか?特に中小企業経営者の方は、いかがお考えでしょうか?
※『元キーエンス社員の回想、通算100回』にして、学生さんむけ、社会人むけ、そして経営トップ・事業責任者むけの記事をまとめてみました(コチラをクリックしてください)。