本日は、平成26年(2014年)3月22日土曜日
【東京・四ツ谷の経営コンサルタント 中小企業診断士の立石です】
土日・祝日のテーマは「バラエティ」です。先週に引き続き、私が新卒で入社した株式会社キーエンスの話題です。当時のキーエンスは中小企業から大企業へ飛躍する頃でありました。現代の中小企業経営者に参考になることも多いと思います。私の頭の中の記憶を綴りますが、もう四半世紀以上過ぎたので、ボンヤリした内容かもしれません。最近は何事につけ日記を書いておけばよかったと後悔する日々です(笑)
以前のブログで綴りましたが、1987年(昭和62年)私と新卒同期で入社した営業配属24名のうち、名前が確実に判明しているとの前提で、半数にあたる12名がキーエンスを既に退職しています。退職した12名のうち、私を含めて3名がキーエンスのライバル会社に転職しました(すべて違う会社)。
残った12名が、入社から20数年経過した今現在も、キーエンスに勤務しているかは音信不通のため確認はできませんが、キーエンスを退職していても、それぞれが新天地で元気に活躍していると確信しています。
一般的な会社ですと、新卒入社で営業配属された新人の初年度の仕事が、補助的な業務のみという会社もあるようです。キーエンスでは、4月に入社して夏には販売グループのメンバーのひとりとして、先輩と同じ目標予算達成の責任を担うことになります。早期にセールスの最前線に配置されるわけです。すなわち自身が担当する事業部の製品と販売地区を任されることで、訪問や電話等によるお客さまとの接触件数が多く、対応する商談件数の数においては、他の会社の新人営業担当者とは圧倒的に差ができます。もちろん新人時代は、都度壁にぶち当たることも多いのですが、グループの先輩の具体的指導がそれを助けてくれます。短期間でたくさんの実戦経験を積みながらの成長は、正直厳しいものでもありますが、顧客へのプレゼン能力や交渉力といったスキルが早期に身につきます。
キーエンスの営業経験者に対する評価は「営業力があって即戦力となる」という理由もあるらしいのですが、それは上記の場数の違いによるものです。ところが、意外なことに転職した会社(私のプロフィールはコチラ)で、キーエンスのトップセールスマンを凌ぐ凄腕の方をたくさん目にしています。個人的所感としては、キーエンスの営業担当者の強みは、最低限の営業のスキルだけではなく、自己完結できる「思考力」を備えつけられているという点だと思います。
ビジネスの世界で、口にすれば何となくカッコ良く見える言葉があります。【統計】や【情報】もそうです。ただ、自身の好評価を期待してか、中身が無いのにこれらの言葉を発していては、本人の薄っぺらさが露見してしまいます。
例えば、「統計を使って公正に評価しよう」とまではいいのですが、それが「平均値による目標管理」で、単に平均値より高い・低いで評価するという信じ難い手法が提案される場合です。おわかりの通り、平均値での管理は偶然の一致でもない限り、個別の実績数字に差異がでるために、計算上は平均値以下の担当者が出現します。結果「常に誰かが悪い評価」となってしまい、それを理由に責められるとなれば、トンチンカンな事態です。キーエンスでの営業経験者は、統計数値での管理を実施する場合、必ず「分散」や「標準偏差」の要素をも取り入れようと提案するはずです。
【情報】という言葉も同じです。現在だと「IT」という言葉に置き換えてもよさそうです。
「情報が重要だ」「情報を持つものが勝利する」などと、もっともらしい言葉を述べて、本人だけが納得していても、具体性が無ければ、何を言いたいのかさっぱりわかりませんね。キーエンスでそんな薄い発言をしていたら、叱責される前に失笑されてしまいます。必要なのは「何の情報を、どのように入手して、いかに活用して、どういう効果が期待できるのか、また活用するにおいてリスクは無いか?成功したあるいは失敗した後にどうするのか(改善案、代替案)、今後どう活かすのか」までの具体的な説明が求められます。
説明にはもちろん思考力が必要で、これは「記憶力・集中力・忍耐力」といった難関大学に合格する要素とは違う分野だと思います。
ビジネス分野、とりわけ担当地区の売上実績を上げるための思考力は「創造力・応用力・コミュニケーション能力」に近いものがあると思います。
キーエンスで営業を経験すると、数字意識と同じくビジネスで必要な思考力についても身につけられるはずです(もちろん全員がそうなるとは保証できません)。キーエンスでは、自身の担当する販売地区において、売上(成果額)予算達成への具体的施策については、自由裁量で行えました。しかも、営業担当者各自が毎月行う必要があります
以前のブログで、「営業所長であれ、先輩であれ、みなさんが業務の依頼を受けた際は、その都度、絶対に【目的】を聞くように」という創業者からの指示を綴ったことがあります。これは行動の前にきちんと考えることが必要だということでもあります。ところが、これを逆手にとって自己に都合よく、目的は「売上を上げるため」としてしまえば、すべての施策や行動が、このひとことで済まされてしまいます。明らかに正しい思考とは言えませんね。
私が勤務していた当時、グループの責任者からは、目的を意識することをさらに深堀した、具体的目標数値の設定を求められました。経済原則を優先するキーエンスの企業風土としては当然です。
例えば、ダイレクトメールの実施に際して。部数(○○○部)を、○月×日に発送して、効果の目標(レスポンス件数、その後の売上件数と金額)を明示する必要がありました。漠然と「売上が上がりそうだから」とだけ口にしたり、「効果がある(はずだ)」と感覚的な主張をしても、その先の目標について説明ができなければ、もちろん却下。以後も、具体的な思考を伴わない発言を繰り返せば、厳しく叱責をうけるだけです。そして、その施策実施後の目標件数が達成、未達成の場合を問わずそれぞれを検証して、その後のノウハウとして蓄積していきます。販売担当する地区の特性は、他の誰よりも自分自身が詳しくなっていきます。
キーエンスで営業経験を積めば、転職した新天地の業種が違っても、まったく売上実績の無い担当地区で、どうやって見込顧客を見つけて、いかに新規契約先を増やすか?その課題に対して、キーエンスの営業経験者は自己解決というより、自己完結できる手法を身につけているはずです。実際に、そういった実績を残した人を、あまた見てきています。
いま現在から回想すれば、施策や行動にあたって、思考力が求められる手法は世間一般の会社と比べて厳しいようですが、正直言って私の退職理由にはなりません。他の会社のシステムや事情など全く知らない新卒入社の私にとって、勤務していた当時は全然へっちゃらな内容であります。しかもポジティブに考えれば、目標と検証について、事前にしっかり明確にしておきさえすれば、その予算(費用)について全く気にすることなく、あらゆる施策を即実施できるのです。何よりも、自身の担当する地域に、独自に工夫した施策を実施してリターン(売上)があるのは、やりがいがあってとても楽しいものです。
一方、先発のライバル会社からの側からすれば、キーエンスは、突如侵入してくる神出鬼没の特殊部隊だったのかもしれません。実際、その対策はとても厄介だったと思います。
私自身はキーエンス退職後、ライバル会社に転職。全く新しい地区で、その特殊部隊と直に対峙いたしました。運命とはわからないものですね。
※『元キーエンス社員の回想、通算100回』にして、学生さんむけ、社会人むけ、そして経営トップ・事業責任者むけの記事をまとめてみました(コチラをクリックしてください)。